兵庫県淡路島の殺人事件についてマスコミを含めた人たちがしている誤解
この事件で、地域のひきこもり対策の話を各マスコミがしていますが、これは完全に無知から来ているものだと断言できます。
内閣府が大学やひきこもりNPO、親の会などと協力して行った実態調査を見てください。
内閣府・ひきこもり調査(平成21年度若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査))
このうちの「II ひきこもり群・ひきこもり親和群の定義」を見てください。
この中でさらに厚生労働省の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」についての言及があります。
「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」の公表について
この中で次のようにひきこもりの定義について言及されています。
「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学,非常勤職を含む就労,家庭外での交遊など)を回避し,原則的には 6 ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である。なお,ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが,実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである。」
つまり、ひきこもりというのは状態としては外出をほとんどせず、数ヶ月家族以外の人との交流を持っていないという定義がなりたちますが、グループとしての「ひきこもり」というのは精神疾患はあっても精神病を持っていない群のことを指すのです。
今回の事件の容疑者は、そもそも過去に入院歴もあり、被害者への誹謗中傷の内容も「現代の科学では解明されていない超技術を使った盗聴(場合によっては思考も含んだ盗聴)をしている」というもので、かなり典型的な統合失調症が疑われる人物です。
そういった精神病を持った(またはそれが強く疑われる)人物に対しては精神保健福祉法でもともと対処可能であって、また対処すべきものです。
精神保健福祉法(正式名称:「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」)について
厚生労働省のページではそもそも報道関係者各位と書いてあるので、本来、このことは確認していなければいけないはずなのですが。
グループとしてのひきこもりはそれらではカバーできない人たちのことを指し、障害者年金や生活保護も受給対象とはなりにくく、ひきこもりが社会問題化する以前の職業支援や医療・福祉支援の対象ともならない、ある種の福祉サービスからこぼれ落ちた人たちのことを指しているのです。
そして、そのようにこぼれ落ちていて何の公的な支援も受けられない状況で家族が孤立したところから、「KHJ親の会」などの家族会、NPOなどの民間支援団体が立ち上がって、家族やひきこもり当事者の支援を始めたわけです。
そういった活動を通して、現実に外に出られないわけで生活に支障は出ているし、重い精神病ではないとは言え多くの当事者が対人恐怖症、強迫性障害などの神経症に類する精神疾患を抱え、社会から退却したことによる喪失感などもありうつ病や抑うつ状態も持っているという実態が明らかになり、医療支援も含めた何らかの福祉の枠内での対応が必要ではないか?という問題提起がなされ、現在、内閣府、厚生労働省、各自治体が対応のガイドライン等を作るに至ったということになると思います。
東京では以前であれば障害者しか対象としていなかった職業訓練、適正審査などをひきこもりの人も受けられるように現在ではなっているはずです。
逆に言えば、原則的にはひきこもりはそのような支援の対象ではなかったのです。
繰返しですが、そういったグループとしてのひきこもりと違って、容疑者は単純に統合失調症かその疑いが強く疑われる人であり、ひきこもり支援は何の関係も無く、それ以前からある法律、対応策・ガイドラインで対処可能だったのです。
先日、ミヤネ屋を見ましたが、Yahoo!オーサーでもある社会心理学者の碓井真史さんが出ていらっしゃいましたが、司会者も碓井さんも前述のことをほとんど理解していませんでした。
碓井さんは事件のニュースに対するYahoo!のオーサーコメントでもこのことを理解していないコメントをしていました。
心理学者もマスコミも今一度このことを確認してもらいたいと思います。
マスコミ、例えばテレビは長期間、定期的にひきこもり問題を追った良質なドキュメンタリーを制作していますが、それを放送しているマスコミ関係者自体がそれを見ていないことが今回明らかになりました。
他の事件などのことを考えてもうすうす気が付いていたことではありますが。
無知なままのマスコミの報道によって社会の偏見が広がるの問題ですが、それを真に受けて国や自治体や国会議員、地方議員などが浮足立った対応を取るのではないかと心配します。
追記
こんな記事もありました。