がんと付き合いながら生きる。その方法。末期でもあきらめない。その2
「がん医療最前線」を見たまとめ・感想の続き。
がんと腸内フローラ(腸内細菌叢)との関係
番組では、真矢みきさんとともにナビゲーターを務めていた冨田勝さんが所長を務めている慶應義塾大学先端生命科学研究所での研究についても紹介されていた。
関係ないがちなみに冨田勝さんの父は作曲家、シンセサイザー奏者として有名な冨田勲さんである。
話を戻す。
紹介されていた研究とは、腸内フローラとがんとの関係だ。
人の便の3分の1から半分が腸内細菌なのだそうだ。
そう考えると人のうんちは細菌の固まりであるとも言える。
これを調べることで色々なことがわかるらしい。
そもそもヒトの腸の中には、細菌が100兆匹もおり、種類は1000にも上るのだそう。
皮膚や口の中などの細菌も含めると相当な量と種類がいることになる。
ヒトの体にはそのヒトとは別の生命がたくさん生きているのである。
その腸内細菌とその割合が、肥満や動脈硬化、アレルギーやうつ病などの精神疾患にまで関わることが近年わかってきた。
便はフリーズドライにして保存しているのだそうだ。
かさも減るし、水分が無いので保存しやすいのだろう。
検査するときには、そこから一部を取り出して水で戻し、専用の機械で腸内細菌の遺伝子を取り出すという。
得られた遺伝情報はデータ化され、国立がん研究センターとともに共同研究パートナーである東京工業大学にあるスーパーコンピュータTSUBAMEに蓄積される。
一人の便から得られる遺伝子のデータは4000万。
それが1000人分、蓄積されているそうである。
膨大なデータである。
がんになった人とそうでない人の細菌の遺伝情報を比べて、際立った違いがあれば、その細菌の働きを調べて、がんのできやすさ、あるいはできにくさに関係があるか調べるのだ。
現在は腸内細菌がいる大腸のがんにのみ注目して研究しているそうだが、これから他のがんと腸内フローラとの関係も明らかになるかも知れない。
個人の遺伝子は変えられないが、腸内環境を変えることはできると研究者の福田真嗣特任教授は言う。
やはり、食生活を中心とした体質改善、生活改善が予防には重要なようだ。
福田特任教授が書かれた本もあるので興味のある方は参考にしてみて欲しい。
息を調べることでがんを早期発見
現在のがん検査は血液検査もあるが、主に胃や大腸の内視鏡検査やマンモグラフィーなど大掛かりなものである。
多くは痛みを伴い、時間も取られるので負担は小さくない。
そんな中で画期的な検査法が注目されている。
患者の息に含まれる臭い成分でがんかどうかを判別するのである。
この教授は外科医でもあり、食道がん手術のスペシャリストだそうである。
数多くの手術を経験する中で、食道がんの患者の息には特有のにおいがあることはすでに広く知られていたそうである。
それを客観的なデータに基づいて判定するために、ガスクロマトグラフィーを用いて臭い成分を分類し、分析しているのだ。
食道がんの患者とそうでない人との息を比較・分析することで食道がん患者に特有の臭い成分の特定に成功したそうである。
食道がんの患者では、ブタノン、酢酸、アセトン、アセトニトリルという成分が際立って高かった。
このような研究結果を蓄積して、将来的には早期のがんの発見にも役立つ、とても簡便な検査方法が確立できる可能性があるとのことだ。
唾液からもがんが早期発見できるようになる
慶應義塾大学先端生命科学研究所では、腸内フローラの他にも、メタボローム解析を用いたがんを早期発見できるかもしれない検査法が研究されており、そのひとつが唾液を用いた検査法である。
メタボロームとは、生体内の低分子化学物質の総称のだそうだ。
DNAやタンパク質よりも小さいないしは細かい糖やアミノ酸などの物質が生体内には数多く存在する。
というのも細胞が活動する中でこれらが代謝物として発生するからだ。
前述の息に含まれる臭い成分も、がん細胞そのものかがん細胞と関係のある細胞の代謝物とも言えるのだろう。
メタボローム解析を行うことで、がんとそれらの関係を調べる試みが行われている。
慶應義塾大学先端生命科学研究所のメタボローム解析装置は、独自開発でありその装置の数、規模は世界最大なのだという。
この解析装置は唾液1滴で約100種類の代謝物を判別できる能力を持っているそうだ。
代謝物に電圧をかけてふるい分け、それを上方へ吹き上げる。
代謝物の種類によって重さが異なるので、落下するスピードも異なり、これによって代謝物をそれぞれ分類することができるのだという。
ここでもやはり、がん患者とそうでない人の唾液に含まれる代謝物を比べて、特徴的な違いを見つけることで、がんの早期発見が可能になるのだ。
膵臓がんは発見が難しく生存率も低いが、唾液のメタボローム解析には、この膵臓がんを早期発見できる可能性があるという。
この他、乳がんや口腔がんについても高精度で発見することが可能だそうである。
がんの発生、増殖にかかわる黒幕の発見
このメタボローム解析は、がんの早期発見の検査法の可能性以外にも目覚ましい成果をあげている。
がん細胞の代謝異常は1923年にオットー・ワールブルグによって発見された。
この、がん細胞に代謝異常を引き起こす原因は長くわかっていなかった。
それが慶應義塾大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授によって発見されたそうである。
これは唾液ではなくがん組織と正常組織の解析によって得られた結果のようだ。
がん細胞特有の代謝物を見つけるだけでは終わらず、その代謝の経路を遡って追った結果、突き止めたのだという。
気の遠くなる作業だったろう。
研究の結果、曽我教授が見つけた物質は司令塔Xと現在のところ呼ばれている。
この司令塔Xは、ヒトの遺伝子の発現に関わるタンパク質だそうで、できたばかりのがん細胞に代謝異常を引き起こすよう命じ、その結果、そのがん細胞は悪性になるのだという。
さらには、がん細胞にたくさん栄養をとらせ、増殖しやすくする働きも持っているのだそうだ。
がんの悪性化、増殖に関わるのが司令塔Xなのである。
司令塔Xが無いと同じがん組織でも増殖の仕方が全然違うとのことだ。
がんになる前の大腸ポリープができた段階で、すでに司令塔Xは正常な人の7倍にも増えているという。
ポリープの段階でこの司令塔Xの数を抑えることで大腸がんへの移行を予防できる可能性があり、曽我教授たちはその取り組みをしている。
これも早期実用化が待たれる。
その他
番組ではこの他、乳がんのがんサバイバーの女性の話が紹介されていた。
しかし、他の番組で見た、別の病気の団体の運営に携わっている女性の話によれば、女性は集まって様々な話をすることで問題を抱えても立ち直りが早く、問題に向き合うことができるのだと言う。
男性は群れるのが嫌いで弱音や本音を他の人に話すことをせず、悩みなどを内に抱えこんでしまうため、中々立ち直れないのだとか。
男性が弱音を吐けなかったり孤立するのは、社会的な背景もあるので難しい。
男性のがんの向き合い方も良い手本があると良いと思った。
また、番組で紹介されていたのは、NPOのような団体に関わって「おっぱい銭湯」という乳がんの啓蒙活動をしたり、手術の前後でヌード写真を撮ったり旅行を楽しんだりという人生を前向きに積極的に楽しむ人達だった。
人によって向き不向きできることできないことがあるし、積極的に活動するのが好みでない人もいるだろう。
たんたんとがんや人生に向き合う生き方もある。
ポジティブな人の方ががんが増えないとか免疫力が高くなるらしいけれども、がんになってすらこうやって生きるのが好ましいという正解を決められるのはまた苦しい。
今、流行りのアドラーではないが、「嫌われる勇気」が必要なのだろう。
本の帯にある「人生を再選択せよ」という言葉は重い。
自分がこれで良いと思えるような生き方を選択する覚悟が大事なんだろう。
がんなどの病気になると嫌でもそのことに向き合わなくてはいけなくなるし、それ以前には納得できていた生き方も軌道修正が迫られる。
番組では末期がんが宣告された患者と彼らに緩和ケアを施す医師の話もあった。
前回の記事や上に書いた、がんが奇跡的に小さくなった人もいるが、大半はホスピスや緩和ケアに着替える人がいるのも現実だ。
避けられない死を目の前にして、積極的に旅行に行くにしろ、普段の生活を精一杯同じように続けていくにしろ、それを支える医者を始めとする医療者のチーム体勢は重要だ。
紹介されていた病院では、アメリカのチーム医療を参考に、患者本位の医療体制を作り上げた。
別の病院の小児がんを抱えた子供のこころのケアをするチャイルドライフスペシャリストも紹介されていた。
手術を始めとして治療に不安を抱えた子供に、点滴や薬の仕組みや手術の手順を説明したり、特別に作られたぬいぐるみや積木で自分が受けている治療を模したごっこ遊びをすることで、恐怖を和らげる取り組みをしていた。
がんを抱えて生きるだけでなく、治療にも当然向き合わなくてはいきない。
その恐怖や不安を小さくしてくれる仕組みは大人にもあっても良いかも知れない。
全部を細かく書ききることはできなかった。
がんが100%治る、あるいはがんになっても付き合っていける病気になりつつあるというのには希望が持てた。
一方で死はまぬがれないのも現実。
がんに限らず大きな病気や治らない病気を抱えることになるというのは珍しいことではない。
そのときに、どのようにその病気と向き合うか、またどのようにその後の人生を歩むかというのは永遠のテーマだ。
番組を見て考えさせられた。