風力発電は自然にやさしくないというツイートがあったが考えてみてほしい
ちょっと前になるが、こんなツイートがあった。
山積みにされた大きな袋。これらは全部、風力発電用の風車に衝突して死んだオジロワシだ。温室効果ガスを出さない発電方法として、エコの代名詞的に取り上げられることもある風力発電。その裏で絶滅の危機に瀕した猛禽類が次々と死んでいる現実を直視しなければ、野生動物との共生は永遠に実現しない。 pic.twitter.com/qtCKQEQida
— 猛禽類医学研究所 齊藤慶輔 (@raptor_biomed) 2017年11月14日
風力発電の風車にオジロワシなどがぶつかって体を切り裂かれて死んでいるというツイートだ。
ここ最近、急増していて、被害にあっているのが絶滅危惧種だけにちょっと物議をかもした。
関連したニュース記事もいくつかある。
絶滅危惧の野鳥、6種42羽死ぬ 風力発電衝突で :日本経済新聞
衝突死した「オジロワシ」山積み写真 風力発電とバードストライク : J-CASTニュース
Togetterを見るとくだんのツイートを見て風力発電は問題だという認識を持った人もいるようだ。
山積みにされた大きな袋。これらは全部、風力発電用の風車に衝突して死んだオジロワシ - Togetter
しかし、ちょっと考えてみてほしい。
上で紹介したニュース記事によると風力発電装置で死ぬ鳥は年間300羽くらいにのぼるとのことだ。
でも、原子力発電所を作るのに土地を切り開いた場合に、土地を奪われる動物はどのくらいいるだろうか?
代表的な2つの原子力発電所の敷地面積が書かれている。
原子力発電所|数表でみる東京電力|東京電力ホールディングス株式会社
施設自体と周辺の線量計を置く施設、そこへ至る道路や検問的な設備、人が常駐するので周辺にできているであろう店などの関連施設を考えるとさらに大きな面積の自然が切り開かれただろう。
そこで住む土地を奪われて、失われた命は相当多いだろう。
しかし、それらは即死したりしないので目に見えてこない。
原発だけではない、火力発電や水力発電でも同じようなことは起こる。
そのようにして森など自然が切り開かれた場合に失われる命についても、指摘し、問題提起していた専門家はいただろう。
しかし、多くの人はそれらについては仕方ないと簡単に考えたはずだ。
それなのにそれよりは少ない数の風力発電の犠牲については、死体が目に見える形で示されたために、「風力は自然にやさしくない」というツイートの問題提起について、安易に認めてしまった。
彼の発言ではないという節もあるようだが、アドルフ・アイヒマンの言葉として有名なものに 「1人の死は悲劇だが、100万人の死は統計上の数字に過ぎない」というものがある。
戦争の犠牲者の話なのでこれを例としてあげるのはちょっと適切ではないが、同じ問題があると思う。
目に見える形で犠牲を示されると、それはセンセーショナルに取り上げられる。
それ以上の犠牲も死体となって見えず、犠牲が将来的なものであったりすると、あまり重要に考えない。
原子力発電、火力発電、水力発電は土地を切り開いたり、貯水のために水没するだけの土地、自然が失われる上に、原子力発電や火力発電は、放射性廃棄物やCO2の排出という自然や地球への影響が指摘され、それによって自然にやさしくないといわれているのである。
水力発電だって、貯水によって以前よりも減る川の水量、人間の都合で放水されることで破壊される下流地域の自然という問題があるはずだ。
最初のツイートをした猛禽類医学研究所の代表で獣医師だそうだ。
彼としても、これまでに起こっていないことが起こり、ショックだったのかも知れないが、これをセンセーショナルに取り上げ、見る人のエモーショナルな部分に訴えかける、直接は言っていないものの彼の立場によってそれがあたかも科学的な意見であるかのような印象にするというのはちょっとずるいと思う。
発電ではないが人の暮らしを豊かにした、自動車や飛行機。
飛行機ではバードストライクがある。
年間1600件程度発生している。
問題のツイートの猛禽類医学研究所がある釧路の周辺では車や列車と鹿との衝突事故が多発している。
車との衝突は2000件弱である。
しかし、これらについては動物の犠牲のために、飛行機の便数や車の数を減らそうなどという話にはならない。
風力発電施設での鳥の死亡数よりも多いにもかかわらずだ。
風力発電施設でオジロワシなどが死んでいることを知らなかった人たちは、このことも知らなかったのではないだろうか?
風車で死ぬ鳥を減らすことはもちろん重要でこのことについては研究していくことが必要だろうし、すでにされている。
上で紹介したニュース記事でも風力発電以外の発電施設の生態系に与える影響について指摘がされている。
安易に感情的に反応せずに冷静に考えた方が良いだろう。