現代の電気を使った文明の産みの親なのに知られていない上、怪しい人だと思われているニコラ・テスラ
ニコラ・テスラを知っているだろうか?
私がニコラ・テスラを知ったのは超常現象ものの番組である。
その中で「ハチソン効果」というものが出てきた。
物体が重力に逆らって浮いたり、捻じ曲がったりする現象である。
その効果を使って米軍が船全体を特殊な状況に置いて瞬間移動や透明化などの、実現すればとてつもなく有利な状況を作り出せないか実験したが失敗し、兵士などが金属の壁に埋まっていたなどとされた実験の話もある。
真偽のほどは定かではなく、ほぼ怪しいものだとされている。
それはともかくとして、その「ハチソン効果」を作り出す装置に使われていたのが、テスラ・コイルというものだった。
テスラ・コイルは全く胡散臭いものではなく現実に存在し、使用されている装置である。
これを考案、発明したのがニコラ・テスラなのである。
私は超常現象番組を通じて彼を知った時、ニコラ・テスラも超常現象の世界で有名な人なのだと思っていた。
もちろんそれもあるのだが、彼は現在使われている交流電流による電力送信や、無線通信を発明したという王道の電技技術者、発明家なのだった。
そんな彼が何故、多くの人にほとんど知られず、知られたとしても怪しげな人物として捉えられ、通常とは違った注目を集めるようになったのか?
それがわかるのが上の伝記小説である。
誰もが知っている大発明家トーマス・エジソンは直流を支持していた。
直流のほうが仕組みがわかりやすく、回路の動作もさせやすい。
現在でも多くの機器はACアダプタで交流を直流に変換して使う。
AC-DCアダプタの略なのである。
目の前の機材、道具を動かすのにはとても都合が良い直流にも弱点があった。
高い電圧を作るのが難しかったのである。
電気のエネルギーは電力といいW(ワット)で表される。
これは電流 I と電圧 V の積で表される。
同じ電力を送るとき、電流を極力小さくしないと送電線を流れるときに熱になって損失してしまう。
同じ電力で I を小さくするためには、電圧 V を大きくしなくてはいけないのである。
当時、直流で高電圧を作り出すことは難しく、発電所から数kmの範囲にしか十分な電力を届けられなかった。
交流はトランス(変圧器)を使って、簡単に電圧を変えることができた。
高電圧にすることで電力をより遠くまで届けることが可能になったのである。
テスラは交流発電機を発明し、交流の発電所が作れることを示した。
現在でも発電所で作った電力を高圧送電線で遠くまで送り、変電所で電圧を下げて電柱の間に張られた電線を通って各家庭まで送り、そこからさらに電圧を下げて100Vの電圧としてコンセントから取り出しているのである。
現在では当たり前の交流の送電システムだが、テスラが交流発電の仕組みを発明した頃には、理解できる人が少なかった。
さらに大発明家であるエジソンがこのシステムに反対し、直流にこだわったのである。
結局、最後には交流発電、送電システムが勝利するものの、エジソンのネガティブキャンペーンによって、テスラは苦境に立たされ、エジソンのような安定した地位を築くことができなかった。
東芝の巨額損失計上で良く聞かれたウェスチングハウス社に繋がる資産家ウェスティングハウス氏や、現在のJPモルガンに繋がるモルガン氏から資金提供を受けたもの、エジソンとは違い、現物を作ることでしか信頼を得られなかったテスラは、発送電システムを実現するも孤立して会社をやめることになったり、無線通信システムを作る過程で投資家との関係が悪化して資金難となり、特許を手放すことになる。
本来ならニコラ・テスラを大資産家にし、自分の発明や計画に自ら投資することも可能になっただろう様々な特許を二束三文で売ることになってしまったのである。
テスラが不遇な境遇できちんとした形で実現できないうちに、イタリアのマルコーニという人物が無線通信を成功させたとして発明の名誉と安定した地位、資金を手に入れる。
ニコラ・テスラが無線通信の創始者であることが認められたのはテスラの死後のことである。
テスラは独創的なアイディアで最後まで独立独歩で発明家、電気技術者と人生を全うしたが、エジソンやマルコーニに比べると不遇だった。
ニコラ・テスラが一般に知られていないのにはこのような背景があるのだ。
当時、良くわからなかった交流や電気そのものを一人理解し、投資家などに対して実演してみせたため、魔法使いのような怪しげなイメージだけが独り歩きし、それが現実に存在する仕組みであることを示した人物として知られる機会だけが失われたのである。
一部のオタク、技術者と超常現象好きの間でだけ有名な人物となったのにはこんなわけがある。
とはいうものの、実際にニコラ・テスラが怪しげな実験をしていたという話もある。
現在、小電力ではすでに実現している無線による電力送信(スマホを台の上に置くだけで充電できる仕組みもそれである)をニコラ・テスラはすでに試みていた。
資金がなく実現できなかったし、現実にできたかどうかは怪しいが、地球自体を共振させることで大きな電力を無線で送電できると考えていたらしい。
また、エジソンとの直流、交流の論争があったころ、交流電流の安全性を示すために、放電の稲妻が飛んでいる中で本を読んでくつろいで見せたりしており、その写真は彼を知っている人の間では有名である。
さらには電流は健康に良いとして、自らの身体に電流を流すという独自の健康法を実践していたとも言われる。
エジソンが犯罪者を私刑にするための装置である電気椅子を発明したのとは対照的だ。
さらには殺人ビームを作ったなどという話も伝わっている。
そして液晶バックライト、ワイヤレス電力送信から「ハチソン効果」などにまで使われるほど幅広い応用が利く装置であるテスラ・コイルの存在がある。
テスラがエジソンやマルコーニのような地位を得て、自由に発明、実用化が可能であったなら、現在の世の中はもっと違ったものになっていたかも知れない。
多くの人にこの不思議だが本当は決して怪しくない人物ニコラ・テスラを知ってほしい。