あれこれ備忘録@はてなブログ

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カラマゾフの兄弟で泣いてしまう箇所

ドストエーフスキイ 中山省三郎訳 カラマゾフの兄弟 上

ところで、その、あなたのお兄さんのドミトリイさんが、あのとき、わたくしの鬚を引っぱったんでございますよ。何というわけもなしに、ただお兄さんが暴れだしたところへ、おり悪しくわたくしが行き合わせたものですから。居酒屋から広場へ引きずり出されたときに、ちょうどそこへ生徒たちが学校から出て来ましてね。その中にイリューシャも混っていたわけなんです。わたくしがそんな目にあってるのを見ると、倅はいきなり飛びかかって来て、『父ちゃん! 父ちゃん!』とわめくんでしてね! そしてわたくしをつかまえて、抱きしめながら、一生懸命に引き放そうとして、敵に向かって、『放してください、放してよ、これは僕の父ちゃんなんだから、ねえ、僕の父ちゃんなんだから、堪忍してやってちょうだいよ!』全くそう言ってどなるじゃありませんか、『堪忍してやってちょうだい』とわめいたのです。それから、小さな手でお兄さんにとびついて、その手に、え、その手に接吻するじゃございませんか、……わたくしは、その時のあれの顔が、今でもありありと見えるようでございますよ。忘れられないんでございますよ、けっして、これから先も忘れはいたしません……」

ところが、不意に、あの子が、『父ちゃん、父ちゃん――』と言いだします。わたくしが、『なんだい?』と言いながらよく見ると、あれの眼が光ってるじゃありませんか。『父ちゃん、あのときね、父ちゃん、ひどい目にあいましたね!』『しかたがないよ、イリューシャ』とわたしは言いました。『あいつと仲なおりしちゃいけないよ、父ちゃん。だって学校で皆が言うんだもの、父ちゃんが仲なおりのために、あいつから十ルーブルもらったなんて』『そんなことがあるもんか、イリューシャ、もうこうなったら、どんなことがあっても、あいつから金なんぞもらいやしないよ』すると、あれはぶるぶる身震いして、いきなり両手でわたくしの手を取って接吻しながら、『父ちゃん、あいつに決闘を申しこんでください。だって、学校でみんなが言うんだもの、父ちゃんは臆病だから決闘を申しこめないんだ、それで、あいつから十ルーブルもらったんだなんてばかにするんだもの』『イリューシャ、あいつに決闘を申しこむわけにはいかないんだよ』と答えて、わたくしは、たった今あなたにお話ししたことを、あっさりと聞かしてやったんです。あれはじっと聞いておりましたが、『父ちゃん、それでもやっぱり、仲なおりをしないでちょうだい。僕は大人になったら、決闘を申しこんで、あいつを殺してやるんだ!』と言うんです。眼を光らせましてね。まあ、それでも、やはり、わたしは父親でございますから、ひとこと本当のことを教えてやらなければなりません。で、『たとい、決闘になっても、人を殺すのはいけないことだ』とこう言い聞かせますと、『父ちゃん、僕、大人になったら、あいつを打ち据えてやるんだ。僕、自分のサーベルであいつのサーベルをたたき落として、あいつに飛びかかって、倒してやるんだ。そしてね、あいつの頭の上にサーベルを振り上げて、「いますぐにでも殺せるんだけれど、勘弁してやる、ありがたく思え!」って言ってやるんだ……』って。

『父ちゃん、金持ちが世界じゅうで誰よりも強い?』って。『そうだよ、イリューシャ、金持ちより強いものは世界じゅうにないんだ』と、わたしが言いますと、『父ちゃん、僕うんと金持ちになるよ。僕は軍人になって、みんな負かしてやるんだ。そうすると、皇帝陛下が僕に御褒美をくださるから、そうしたらここへ帰って来るんだ。そしたら、誰だって僕に手出しなんかできるものか……』それからしばらく黙っていましたが、『父ちゃん』とまた言いだしました。――唇はやはり前のように震えてるじゃありませんか、『ここの町は本当にいやな所だねえ、父ちゃん!』『そうだ、イリューシャ、この町はどうもあまり感心しないよ』『父ちゃん、ほかの町へ、ほかの、いい町へ引っ越しましょうよ。僕らのことを誰も知らない町へ引っ越しましょう』『うん、越そう! そうしよう。イリューシャ、ただお金を少しためりゃいいんだから』と言って、わたくしは、あの子の悲しい思いをまぎらすおりがきたのを喜んで、どんな風にして他の町へ行こうかだの、馬と馬車をどうして買おうかだの、いろんな空想を始めました。『母ちゃんと姉ちゃんは馬車へ乗せて、上からおおいをしてやろう。そしておまえとお父さんはそのそばを歩いて行こうよ。ときどき、おまえだけは乗せてやるが、父ちゃんはやはりそばについて歩いて行こう。だって、うちの馬だから世話をしてやらにゃならんから、みんなで乗るわけにはいかないんだよ。そんな風にして行くことにしようね』こう言いますと、あの子は夢中になって喜びました。

……それで、あの子はいきなりわたしに飛びかかって、小さな両手でわたくしの首筋に抱きついて、じっとしめつけるのでした。御承知でしょうが、無口でいても、気位の高い子供は、いつまでも肚の中で涙を押えているものですが、非常な悲しみに襲われてやりきれなくなると、もうそのときは涙が流れるのでなくって、まるで小川がほとばしるようでございますよ。その暖かい涙がほとばしって、わたしの顔は、たちまちずぶぬれになってしまいました。あの子はまるで引きつけたように、しゃくりあげて泣きながら、身震いをして、一生懸命にわたくしを抱きしめるじゃありませんか。わたくしはじっと石の上に坐っておりました。『父ちゃん』とあの子がわめくのでございます。『父ちゃん、あいつは父ちゃんになんて恥をかかしたんだろうね!』そこでわたくしももらい泣きをしましたんですよ。二人は石の上に坐って、抱き合ったまま震えておりました。『父ちゃん、父ちゃん!』とあれが言えば、わたしも、『イリューシャ、イリューシャ』と申します。そのとき誰も二人を見た者はございません。ただ神様だけは御覧くだすって、出勤簿につけてくだすったろうと存じます。どうか、アレクセイ様、お兄様にようくお礼を申してくださいまし。とんでもありません。あなたの御得心のいくように、あの子をなぐるわけにはとてもいきませんでございますよ!」

イリューシャが本当に健気で切ない。

近代ライブラリーで大体の筋は読みましたが、早く青空文庫で続きが読みたいです。

ただ、公開されても今はまともに読めるかどうかわかりません。

あたまをすっきりさせたいです。

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