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あれこれ備忘録@はてなブログ

勉強したことやニュースや出来事を備忘録として書いていきます

『提報者 ~ES細胞捏造事件~』 日本で起きていたらマスコミは報道できるか?

ES細胞研究捏造事件を覚えているだろうか?

韓国の黄禹錫(ファン・ウソク)教授が起こした、ヒトのクローン細胞からES細胞を作成することに成功したという研究や論文やそれ以前の研究のほとんどが嘘であったという大スキャンダルである。

黄禹錫 - Wikipedia

medley.life

素人にはくわしいことはよくわからないが、クローンによる体細胞からES細胞を作るというのはこれまでに成功していなかったらしく、仮に成功すれば倫理的な問題があるとはいえ拒絶反応なしに臓器を作ったり、難病患者に有益な細胞が作ることができるという画期的な成果だったそうである。

現在ではiPS細胞で同じような成果があるために倫理的な問題のあるES細胞よりもiPS細胞の方が将来性があるとされているが、以前はES細胞が前述の治療やその他の研究の唯一の方法だった。

ファン教授は目覚ましい成果をあげていて韓国で初めてのノーベル賞受賞も夢ではないと言われていたこともあり、一連の論文・研究のほとんどが捏造であったというスキャンダルは韓国中を混乱させた。

卵子の入手方法も違法なものであったこともあり、科学界においてもES細胞への信頼が揺らぎ、iPS細胞の登場まで再生医療などの分野の研究を全世界的な規模で停滞させたらしい。

この映画はそんな実話を元にした作品である。


テレビ局NBSで「PD追跡」という番組を担当しているプロデューサーのユンは、卵子の違法売買の情報を聞きつけ、追跡するうちにあるクリニックが関わっていることを突き止める。

そのクリニックには韓国で今最も注目するイ・ジャンファン博士が在籍していた。

卵子の違法売買の問題を追求しようと関係者を当たると元内部関係者から信じられない事実を告げられる。

なんと、ES細胞研究のために違法に入手された卵子が使われていたばかりか、そもそもES細胞研究成果のほとんどが捏造だというのである。

これが事実であるとすれば大スキャンダルであり、正義のために報道するのが当然だが、それをすれば韓国に対する世界の信用は地に落ちる。

内部告発者は、元々夫婦共にイ・ジャンファン博士の研究チームの一員であり、難病の子供のための治療環境が博士の好意で提供されていた。

そしてイ・ジャンファン博士の研究によって子供の病気を治せるかも知れないのである。

迷いながらも事件を追う報道関係者、内部告発者に、クリニックやイ・ジャンファン博士の口封じのための工作、国益を優先するものや真実を見ようとしないものたちによる攻撃や妨害、ついには政府関係者からも圧力が加わる。

果たして報道は正しく真実を伝えられるのか?優先すべきは国益か真実・正義のどちらなのかが報道関係者、そしてそれだけにとどまらず韓国社会に問われる。


映画では架空のテレビ局、テレビ番組が登場するが、現実にMBCというテレビ局に告発のメールがあり、「PD手帳」という番組で取り上げられたことから事件化する。

報道に端を発する大スキャンダルによって完全に研究者生命が断たれたかのように思われたファン・ウソク教授だが、近年、その成果のいくつかは本当であったことが認められ、それを元にしたプロジェクトに参加するなど、ファン・ウソク教授の復権が行われているようである。

webronza.asahi.com

japanese.yonhapnews.co.kr

一方、日本も韓国のこの大スキャンダルを笑っていたら、STAP細胞の捏造事件が起こってしまった。

番組報道直後に内部告発者は、韓国の恥になる事実を否定したい人たちによって個人情報がネット上に晒され、プライバシーを侵害されている。

韓国では未だにファン・ウソク教授の熱烈な信奉者がおり、名誉を毀損する行為を続けているものがいるらしい。

日本でも小保方晴子氏やSTAP細胞の存在を信じる人がおり、個人のWebサイトやブログでSTAP細胞が実在するというものや陰謀論のようなテーマの記事があり、メディアでも小保方晴子氏を擁護し同僚の若山教授をバッシングしたりする記事が書かれている。

韓国のES細胞研究にも幾つかの本物と証明されたものがあったのだから、日本のSTAP事件にも全てを捏造と言えない何かはあるかも知れない。

しかし少なくとも日本も韓国のことを全く笑えないということだけは事実である。

STAP細胞事件ではおおむね日本の多くの人は真実を求める方を望んだが、この作品の中の国民のように真実を見るよりも国家の威信や国益の方を望んでいたら、どうなっていただろうか?

実際にはどうだったのかわからないが、映画の中では、イ・ジャンファン博士はPD追跡の動きを察して、マスコミ関係者との酒席をセッティングして告発者が嘘の情報を流したなどと言って先手を打ったり、PD追跡の独占取材を認めるという取引を持ちかけたりする。

取り引きの場面では、話を切り出すときにプロデューサーの出身校を調べておき、自分は彼の先輩であることをわざわざ伝えている。

日本でも名門校になれば、このような脅しめいた仄めかしはあるだろうと思う。

昔の小説で映画化やテレビドラマ化もされた『白い巨塔』ではまさにこのような出身校による派閥や先輩後輩関係が物を言う医師の世界が描かれていた。

日本も昔ほどではないとは言え、韓国のように人脈や出身地、出身校、長幼の序による配慮が求められ、利権や圧力のある社会である。

韓国の大統領府つまり政府関係者が事態の収拾に乗り出し、TV局の社長と面会して放送中止を要求する場面もある。

安倍政権になってマスコミに圧力がかかったとか、圧力はないが上層部と総理などが懇談し懐柔されたとか、過剰な配慮をするようになったと言われているのが現在の日本の状況である。

そのことが大きく影響し報道の自由度のランキングでは日本は72位に落ち込んでいる。

ecodb.net

www.asahi.com

韓国は70位でさほど変わらないとはいうものの日本よりも上となっている。

作中にあったような取引や根回しなどの工作があった場合、日本のマスコミは真実を報道するという姿勢を貫けただろうか?

いろいろ考えさせられる映画だった。

さて、果たしてSTAP細胞捏造事件は映画になるだろうか…?

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