ザ・ドア 交差する世界 ---権力も特殊能力も無い普通のマッツ・ミケルセンが魅せる---
『ザ・ドア 交差する世界』を見た。
主役はマッツ・ミケルセン。
映画『007 カジノ・ロワイヤル』のル・シッフルやドラマ『ハンニバル』のハンニバル・レクターなどで知られている俳優だ。
エキセントリックというか、変わった役、しかも悪役が多い印象がある。
このザ・ドアの役はそれとは違う。
浮気をしているうちに、娘が庭のプールに落ちて溺れ死んでしまい、娘も妻も失ってしまった男の話だ。
そんな男が普通か?というツッコミがあるだろうが、何もなかったら物語にならない。
少なくともマフィアみたいな権力も無いし、天才的な頭脳も持っていない、片目から血の涙も流さなければ、猟奇殺人もしない平凡な男だ。
家族を失い傷心のダヴィッドは娘が死んだプールに身を投げて自殺を試みるが友人に助けられる。
その後の話は次のようなものだ。
ダヴィッドは泥酔しながら街を徘徊するうちにある空家を見つける。
その空家で夜にもかかわらず、まぶしい光が漏れているドアがあった。
そのドアをくぐって出てみるとそこは5年前、娘が死んだあの日の光景だった。
ダヴィッドは当然、娘を探し、助け出すことに成功する。
しかし、今度は別世界の自分に不審者と間違われ、彼を殺してしまう。
実は彼のように別世界に来て人生をやり直そうとする者は他にもいて…。
ダヴィッドは、英語ではデヴィッドに相当する。これはドイツ映画なのでダヴィッドらしい。
ドイツ語ではDavidのvは本当は英語のfと同じ発音になるので濁らないはずだが、ダフィットではなくダヴィッドになるようだ。
ダフィット・ヒルベルトという数学者もいるのでダフィットもいるのだろう。
というよりも元々ダフィットが多かったのが英語などの影響でダヴィッドと呼ぶことが多くなったのかも知れない。
こういう読み方の変化の代表的なものとして思い浮かぶのはスティーブンだろう。
Stephenと書いてどうして「ブン」と発音するのかわからない。
Stefan、Stephanが対応するドイツ語でステファンと発音するようだ。
こちらのほうが綴りと音が対応している。
その他、国によってエステバン、ステパン、イシュトバーンがあるらしい。
他には、Michaelがマイケルだったりミヒャエルだったりするし、聖書に出てくる名前のJacobがジェイコブだったりヤーコプだったり、JohnがジョンだったりJohannでヨハンだったりIvan(イヴァン)、Sean(ショーン)だったりするようだ。
ここまで来ると全然わからない。
平行世界モノでは、失敗する度にタイムマシンやこの作品の場合はドアをくぐって時間軸では過去の別世界へ行くのが定番だと思うが、この作品ではそうはならない。
やり直しをしても運命に逆らえないというのではなく、一度の失敗はやり直せるがその後の失敗は取り戻せない。
その失敗を取り繕う為にどんどん深みにはまるダヴィッド。
不思議な能力を持たず、運命に翻弄される男を演じるマッツ・ミケルセンは魅力的だ。
デンマークはデンマーク語なので似ているとしてもドイツ語はネイティブではないのだろう。
完全にマスターしているとは限らないが映画のセリフをよどみなく言えるくらい英語もドイツ語もできるなんて羨ましい。
ちなみにマッツ・ミケルセンの兄のラース・ミケルセンはSherlockのチャールズ・アウグストゥス・マグヌセンを演じていることで知られていると思う(詳しい人はもっと別の作品で知っているだろうが)。
兄もイギリスのドラマに出ているから英語は十分できるのだろう。
あちらの俳優は頭も良くなければいけないようだ。
英語圏の生まれなら少しは楽なのかも知れない。
イギリスとアメリカ両方の作品に参加するのにもハードルは低いだろうから。
二人とも俳優としての功績が認められたからかナイトの称号を与えられている。
日本の認知度で想像するよりずっと有名なのだ。
『ザ・ドア』は、ハリウッド映画とは俳優の使われ方も話の内容も違っていて面白い作品だ。
こういう映画なかなか地上波では放送されない。
BSでもなかなか無い。
CSくらいかな。
自分はCS無料放送の時に見ている。
ネット配信は安くて見たい時に見られて便利だが、ネット配信ではこういう出会いが無い。
AbemaTVの『ビッグバン★セオリー』もそうだが、限られた選択肢が与えられて、そこから選ぶということがないとなかなか見る機会が無い、というか見る気にならない。
無料で見られるのがこれであるとか、今の時間見ることができるのがこれであるとかいう不自由は実は重要なのだと思う。
面白い作品なので他の人にも見て欲しい。